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業務上横領と詐欺の違い
このページは、弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
会社のお金を着服した場合、業務上横領になるか詐欺になるか微妙なケースが少なくありません。実際は詐欺にあたるのに、相談した弁護士から業務上横領と言われたケースもあるようです。 そこで、刑事事件の経験豊富な弁護士が業務上横領と詐欺の違いについてまとめました。
業務上横領の要件
(1)他人の物を占有していることが必要
業務上横領の要件は、業務上、自己が占有する他人の物を不法に領得することです。「不法に領得」というのは、「横領」と同じ意味と考えてもらって構いません。
ポイントは「自己が占有する他人の物」という要件です。他人の物を「占有」していない限り、業務上横領罪は成立しません。それでは「占有」とはどのような状態をいうのでしょうか?
(2)業務上横領の占有とは
占有とは物を支配している状態のことをいいます。一般的に占有には、①事実上の占有と②法律上の占有があります。
①事実上の占有とは、支配の事実と支配の意思から判断されます。支配の事実を裏づける最も重要な要素は、物と本人との物理的な距離です。支配の意思は「本人がその物を意識しているか否か」によって判断されます。
例えば、所有者がベンチに荷物を置いたまま、2,3メートルその場を離れていたにすぎないときは、物理的な距離が近く、支配の事実が認められます。その所有者が、ベンチに荷物を置いていることを明確に意識しているときは、支配の意思も認められます。そのため、このケースでは、所有者の事実上の占有が認められることになります。
一方、買った物をスーパーの中に置き忘れたまま、スーパーの外に出て数キロメートル移動した場合は、支配の事実も意思も希薄であり、所有者の占有は認められないでしょう。
業務上横領に関連して事実上の占有が認められるケースとして、<客から集金して鞄の中に入れたお金に対するその集金係の占有>があります。
これに対して、②法律上の占有とは、物を事実上支配しているわけではないがその物を処分できる権限をもっていることをいいます。「状態」ではなく「権限」に着目していることがポイントです。
業務上横領に関連して法律上の占有が認められるケースとして、<会社の預金口座を管理している出納係の預金に対する占有>があります。預金を事実上占有しているのは銀行ですが、出納係にも法律上の占有が認められます。
業務上横領は、集金係などの事実上の占有者が横領するケースと経理担当者など法律上の占有者が横領するケースがあります。後者の方が着服金額が高くなる傾向があります。
詐欺の要件
詐欺の要件は、①他人をだまして、②錯誤に陥らせることにより、③財産を処分する行為をさせ、④財物の占有を自己または第三者に移すことです。単に相手をだまして錯誤に陥らせばよいというわけではなく、処分行為をさせることが必要です。
【処分行為の例】
会社の決裁担当者が預金の払い戻しの決定をして払い戻し請求書に銀行届出印を押す行為
業務上横領と詐欺の違い
(1)占有からみた違い
業務上横領のケースでは、もともと加害者が物を占有していることが必要です。これに対して、詐欺のケースでは、被害者をだますことによって、はじめて物の占有を自分の側に移転させることになります。
このように、占有の所在に着目することによって、業務上横領と詐欺を区別することができます。
なお、業務上の占有者が、物を横領するための手段として、または、横領したことがばれないように、他人をだましても、それによって物の占有が移転したことにはならないので、詐欺ではなく業務上横領になります。
(2)行為からみた違い
会社従業員による詐欺が問題になるケースでは、会社資金の処分権限をもっている人をだます行為が必ず介在します。一方、業務上横領のケースでは、誰にも言わずに、ひっそりと着服しているケースがほとんどです。
このように、他人を巻き込んでいるか、ひっそりと行っているかによっても業務上横領と詐欺を区別することができます。
業務上横領と詐欺のよくあるケース
【ケース①】
日頃から金庫に会社のお金を出し入れしている経理担当者が、金庫のお金を着服した
↓
経理担当者に金庫のお金に対する占有が認められますので、業務上横領になります。
【ケース②】
元請け会社の従業員が、下請け会社の社長と結託して、下請け会社から元請け会社に水増し請求させ、元請け会社から支払われたお金の一部を下請け会社からキックバックさせた
↓
架空請求により元請け会社の従業員をだましてお金を振り込ませているので、詐欺罪が成立します。元請け会社の社長も共犯となります。
業務上横領と詐欺の弁護活動
業務上横領も詐欺も、刑罰は10年以下の懲役で違いはありません。どちらも罰金刑がないため、起訴されれば公開法廷で裁判をうけ、検察官から懲役刑を請求されることになります。
そのような事態を回避するためには、示談が非常に大きな意味を持ちます。
示談金は着服した金額がベースになります。刑事事件の示談では、示談金は一括払いがほとんどですが、業務上横領や詐欺のケースでは、示談金が高額になることが多く、長期の分割払いになることも少なくありません。長期の分割払いを可能とするためには、加害者が早期に再就職し、安定収入を得られるようにする必要があります。
懲戒解雇されれば、再就職が難しくなり、被害弁償にも影響を与えてしまいます。そのため、弁護士が交渉することにより、懲戒解雇を避けられる場合もあります。まずは刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。
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